魚津のバー文化発祥店「BAR Power GRAN」から拡がるバーと魚津の未来

レッド

written by 大西マリコ

人口比率に対する飲食店数が全国トップクラスの魚津市。しかし、意外とバーの数は少なく、とくに"正統派”といわれるオーセンティックなバーとなるとさらに少なくなります。 

そんな魚津市に「バー文化を根付かせたい」と奮闘しているのが、今回ご紹介する「BAR Power GRAN」の店主・佐々木麗さん。若干20歳でバーを開き、富山初となるウイスキーフェスを開催させるまでに至るまでお話を伺いました。  

インタビュイー:佐々木麗(ささきうらら)さん

インタビュイー:佐々木麗(ささきうらら)さん

魚津市にある「BAR Power GRAN」のバーテンダー。20歳でバーテンダーの道を志すと同時に、同市に「Power - take it easy」をオープン。13年の経営を経て2020年12月、現店を移転オープンした。第20回エリートバーテンダーカクテルコンペティション北陸大会/優勝(2014)を始め、数々の賞を受賞する敏腕バーテンダー。2023年9月には、富山初の「TOYAMAウイスキーフェス」を開催。実行委員長としてゼロから企画、実行に奔走し大成功を収めた。

思いを形に。やりたい!を叶える強い「Power」  

 

  

――― 20歳で「バーテンダーになりたい!」と思い、すぐさま自身のお店をつくったという佐々木さん。まずは当時のお話から聞かせてください。  

  

20歳のある日、富山市内の老舗バーに連れていってもらったのが、今の道へ進む第一歩でした。そのバーで飲んだジントニックがすごく美味しくて。「これをつくれる人になりたい!」と思ったんです。  

 その当時、昼の仕事が終わった後、夜に時間があったので知り合いのバーで働いて、ジントニックをよくつくっていたんです。それで「自分がつくるものとは全然違う!」「つくる人や、つくり方でこんなに味が変わるんだ」と衝撃を受けたのがきっかけです。  

 その店は「オーセンティックバー」と呼ばれる、いわゆる正統派のバーだったのですが、当時の魚津市にはありませんでした。「だったら私がつくろう」と、単純に考えた結果、2007年、20歳の時に開店したのが現在の店の前身となる「Power – take it easy -(パワー/テイクイットイージー)」です。  

  

 ――― 店名にある「take it easy」の言葉通り、“気楽に行こうぜ!”と楽しみながら、やりたいことを実現させたのですね。順風満帆なバーテンダー人生のスタートですね!  

  

それが全く順風満帆ではなくて……。居酒屋文化が盛んな魚津では焼酎やビールの注文が多く、当時カクテルを頼まれるお客様は、ほとんどいなかったんです。「私はカクテルをつくりたいんだ!」と思っていましたが、そんなことを言っていると経営が成り立たないので数年間は続けていましたね。  

 その後、思い切ってカクテルのバーとしてメニューをショットだけにしました。しかし、それだけではやはり経営が厳しく、数年間はアルバイトを続けながら店を開いていました。 

 

  ――― 自身の店を開き、バーテンダーになったものの現実は厳しかったのですね。そこから現在のようにカクテルを飲みに来る方が増え、多くの人に愛されるお店になるためにはどんな道のりがあったのでしょうか?  

  

私自身、カクテルの技術は独学で、未熟な部分も多かったので、まずはきちんと勉強して私の仕事を知ってもらおうと考えました。その方法として「バーテンダーの大会に出て、賞を取ろう!」と。そこからは日夜、先輩方から指導を受け、とにかく賞が取れるまで頑張りました。 

そして、さまざまな大会へ出場し続け、2014年に『エリートバーテンダーカクテルコンペティション北陸大会』で優勝。そこから状況は大きく変わりました。お客様から「新聞見たよ!」「大会でつくったあのカクテルを飲んでみたいんだけど」という声をいただくようになり、徐々にお店も、バーテンダーとしても軌道に乗り始めました。  

 

魚津のバー文化を盛り上げる「BAR Power GRAN」  

▲魚津駅前からの街の風景  

 

――― 大変なことがあってもバーテンダーとして歩み続けた佐々木さん。それほどまで夢中になれる、バーテンダーという仕事の魅力はどんなところですか?  

  

さまざまな人に出会えることですね。バーテンダーという仕事をしていなかったら出会えない人や、知らなかった話を聞くことができるのが魅力です。お客様によって自分自身もどんどんアップグレードできるというか、成長にも繋がっている感じがしています。20年近くこの仕事をしていますが、本当に飽きることがありません。  

  

 ――― 生まれ育った魚津市でバーを開き、約20年。居酒屋は多いけれどバーは少なかった魚津に「バー文化を根付かせたい」という思いがあったとお聞きしました。開店当初と現在で感じる変化はありますか?  

  

お客様の過ごし方が変わってきたというのは確信しています。例えば、以前は焼酎やビールが多かった注文がカクテルを頼む方が増えたり、とりあえず行こうというよりはうちの店を目的に来てくださったり。少しずつですが、魚津にバー文化が広がってきているのではないかと思います。 

 

  ―――「魚津市にバー文化を」というお話でいうと、昨年2023年9月に富山初となる「TOYAMAウイスキーフェス」を開催されました。どんなきっかけで開催に至ったのでしょうか。  

  

10年前に、埼玉県の「秩父ウイスキー祭」に行ったのが始まりです。蒸留所や酒屋さんなどが集まって、たくさんのウイスキーを飲めるお祭りなのですが、これがすごく楽しくて。「魚津でもやりたいな」と思って、友人や仲間にはずっと言っていたんです。 

でも、何から始めたら良いのか分からなかったですし、この10年はお店を軌道に乗せるのに必死だったので昨年ようやく始動、開催することができました。  

 

魚津バー文化に新風を巻き起こしたウイスキーフェス  

 

 

――― 何も分からない状態でイベントを企画開催するのはすごく大変なことですよね。どのように作り上げていったのでしょうか?  

  

とりあえずウイスキーを出してくださるメーカーさんがいないと何も始まらないということで、まずは私が知っているメーカーさん、作り手さんに片っ端から連絡しました。「富山でこんなイベントをしたいのですが、出ていただけませんか」と。でも、全部断られてしまって……。 

そこから「どうやったら来てくれるだろう?」と悩んで、イベント開催への想いや作り手さんへの想いを伝え集まってくださったのが11社。富山だけでなく、金沢や東京、九州から来てくださった方々もいらっしゃいました。  

 

――― 佐々木さんの熱い思いが伝わったのですね!会場は日本一海に近いテーマパークであり、魚津を代表する場所「ミラージュランド」でしたが、どのようにして選ばれたのでしょうか?  

  

「秩父ウイスキー祭」をモデルにしていたので、当初は神社での開催を考えていたのですが、規模や許可が難しく、ならば「魚津らしい所で!」と、ミラージュランドが候補に上がりました。少し歩くと海があるのですが、来場してくれた方から「海のそばでウイスキー片手に飲んだのは初めてで、とても楽しかったよ」という声をいただいて、大成功だったと思います。 

でも実は、決定した後に「野外だから雨が降ったらどうしよう……」と当日まで不安だったんです。結果的に快晴でホッとしましたが、次に開催する時は絶対に屋内にしようと決めています(笑)。 

 

  ――― イベントにはバーテンダー仲間や友人、お店のお客さんなど、多くの人と協力し合ったと聞きました。たくさんの人の力が集結したイベントだったのですね。  

  

今回、イベントを無事開催できて、多くの人に楽しんでもらえたということも嬉しかったのですが、何よりも「人の気持ち」をダイレクトに感じたのが一番の学びでした。私がやりたいと思ったことにたくさんの人が共感してくれて、共に一生懸命動くことができる。それがありがたかったですし、力になりました。 

とくに感謝しているのは、「秩父ウイスキー祭」の実行長さんです。突然ご連絡をして、「ウイスキー祭りが大好きで、富山でもその楽しさを伝えたいのですが何も分からないので教えていただくことは可能ですか」と言ったら、快諾してくださって。すぐに埼玉に行きました。 

すると、実行長さんが「教えることはできるけど、ただ本当に大変だよ」と。でもその時の私は何が大変なのかさせも分からなかったので、「頑張ります、できる限り教えてください!」とお願いしました。それで本格的に動き出したのですが、本当に大変でしたね(笑)。先ほどお話したメーカーさんに全部断られた話を始め、場所選びや各方面への許可取りなど、知らないことややることが山のようにありました。 

それでも成功したのは、埼玉の実行長さんが丁寧にアドバイスをしてくださったおかげです。現在も良い関係が続いていて、2024年2月の「秩父ウイスキー祭」に魚津のお客さん達と30人くらいでバスを借りて行く際にはチケットを確保してくださるなど、親切にしていただいています。  

  

 

  ――― 本日は貴重なお話をありがとうございました!最後に、「BAR Power GRAN」の魅力アピールをお願いします。  

  

魚津は海も山もあって、水や食べ物が美味しい場所です。とくにフルーツが美味しくて、りんごやぶどうなど季節ごとにさまざまなフルーツを楽しむことができます。当店では、そんな魚津の旬のフルーツをたっぷり使ったカクテルを提供していますので、富山の方もそうでない方も、是非足を運んでいただけたら嬉しいです。  

また、日本を代表するバーテンダー・銀座「MORI BAR」の毛利隆雄氏が考案した伝説の「毛利マティーニ」を飲める、数少ない店です。オールドスタイルはもちろん、他ではなかなか飲めないカクテルを提供できますよ。いつもの日常がほんの少し非日常に変わる、特別な時間を「BAR Power GRAN」でお過ごしください。  

 

▲魚津港から見た毛勝山 

 

▼BAR Power – GRANについてはこちら! 
https://power-gran.com/  

 

 

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