「人と地域をつなぐ拠点に」あわすのスキー場、再生から4年目の挑戦

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written by 大西マリコ

富山県で2番目に古い歴史を持つ『あわすのスキー場』。2020年、存続の危機から地域の力で蘇ったこのスキー場は、今や新たな姿を見せつつあります。冬のスキー場から、四季を通じて楽しめる観光スポットへ。そして、地域活性化の拠点としての役割も。再建に尽力し、現在は支配人として陣頭指揮を執る松井一洋さんに、これまでの道のりと未来への展望を伺いました。(★2021年にインタビューした前回の記事はこちらから) 

インタビュイー:松井一洋さん

インタビュイー:松井一洋さん

富山県富山市あわすの生まれ。中高とアルペンスキーの選手として活躍。サラリーマンとして働く傍らスキーコーチやスポーツクラブで選手の育成なども行う。社会保険診療報酬支払基金を経て、2020年6月からあわすのスキー場の復活を支える会の代表、2021年12月よりあわすのスキー場・支配人、NPOあわすのの監事を務める。

四季を通じた観光拠点へ。
進化するあわすのスキー場  

 

――― 4年前に「あわすのスキー場を支援する会」を立ち上げてから、現在までの道のりを教えてください。 

再建が始まったのは2020年10月以降です。その後、コロナ禍でアウトドアブームが起こり、最初の3年間は非常に良い状態で推移しました。入り込みの人数も多く、需要が高まった時期でした。存続できたという話題性も含めて、世の中から注目されるスキー場になり、多くの人が訪れる場所になったと思います。 

しかし、昨シーズンは雪不足と震災の影響で、少し入り込みが減少しています。 

そのため、今シーズンからは新たな施策を積極的に取り入れています。とくに力を入れているのがグリーンシーズン(夏季)の活動強化です。平日は予約制で運営していますが、土日は通常のレジャー施設として様々なアクティビティやコンテンツを追加しています。これにより、一種のリゾート施設として年間を通じて賑わいを見せるようになりました。 

 

――― なるほど、スキー場の概念を大きく変えられたんですね。オールシーズンで楽しめる場所として生まれ変わったということですが、具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか? 

あわすのスキー場は「オールシーズンアクティビティのベース基地」というコンセプトを掲げています。スキー場の収入の根幹は当然冬季の営業期間にありますが、年間を通じて様々なニーズに対応するよう多様化を図っています。スキー場を「スキーだけの場所にしない」という方針で動いているのです。 

具体的な取り組みとしては、今年の4月からバギーツアーを始めました。森林浴を兼ねながら四輪バギーに乗って約2キロ、15分間のツアーで、写真映えするスポット4ヶ所ぐらいで記念撮影をしながら山中を走るというプランです。これが今、非常に人気があります。 

 

 

また、地元の特産品を活かした取り組みも行っています。あわすののそば粉を使った、地元のお母さんたちが打つ手打ちそばを提供しています。蕎麦だけでなく山菜料理も一緒に出しているのですが、これがとても評判がよく、リピーターも増えてきています。 

 

 

――― この4年間で、周囲の反応や環境に変化はありましたか? 

メディアでの露出が増え、多くの人に認知されるようになったと感じています。実際に、金沢など富山県外から来てくださるお客様も増えました。そして反応といえば、実は私、地元で「スキー場再建おじさん」としてちょっとした有名人みたいになっていまして(笑)。居酒屋などで声を掛けられることもあります。 

正直、戸惑うこともありますが、私個人が有名になることがスキー場が注目されることに繋がるのなら大歓迎です。スキー場にとってのメリットになるとポジティブに捉えています。

 

地域と共に歩む未来へ。
持続可能な経営を目指して 

 

――― 4年間で大きく変化した、あわすのスキー場。現在の経営面での課題や工夫について教えてください。 

スキー場の経営は季節や天候に大きく左右されるため、安定した収入源の確保が課題です。そこで私たちは、NPOの会員制を活用しています。四季を通じたファンを増やし、会費収入を安定させることで、雪の少ない年でも経営が成り立つ仕組みづくりを目指しています。 

現在、会員数は4年前の約96名から430名程度まで増加しました。目標は800名から1000名です。この会費で従業員を雇用し、営業利益でさらに雇用を増やすというビジョンを持っています。 

また、新規顧客の獲得と常連化も重要な戦略です。以前は常連客だけに頼っていたことが経営危機の一因でした。その反省を踏まえ、新しいお客様を積極的に呼び込みつつ、その方々が常連になれるような仕組み作りやプロモーションに力を入れています。

 

▲松井さんいわく「日本一お世話をしないキャンプ場」。自由にゆったりアウトドアライフを堪能できます。

 

――― 経営の安定化に向けて様々な工夫をされているんですね。そうした努力の先にある、あわすのスキー場が地域に果たす役割についてどのようにお考えですか? 

私たちの最終目標は、ここが地域活性化の拠点として存続していくことです。単なる観光地ではなく、「あわすのに住んでみたい」「ここで何かを始めたい」と思う人を増やし、その思いを現実化できる場所にしたいと考えています。

例えば、将来的には地域の交通手段としてデマンド交通を運営するなど、スキー場を中心とした地域づくりも視野に入れています。高齢化が進む中で、こうした取り組みは地域の方々の生活を支える役割も果たせるでしょう。 

また、小さな子供たちや若い世代に、あわすのを「思い出の地」として記憶に残してもらえるような仕組み作りも大切だと考えています。将来、もし再び存続の危機に直面したとき、きっと助けてくれるのは、ここで思い出を作った人たちだと信じているからです。 

  

意外な夢が示す未来図。
サラリーマンへの回帰 

 

 

――― 松井さんは、あわすのスキー場の再建と発展に全力を注がれていますね。将来的にはどのような展望をお持ちですか? 

私たちは「日本一優しいスキー場」を目指しています。特に初心者の方々にとって、心地よく支えてあげられる場所でありたいと考えています。スキーを始める最初の場所として選んでもらい、良い思い出を作っていただく。そうすることで、大人になって家族ができたときにまた戻ってきてもらえるような環境づくりを目指しています。 

また、現代の子どもたちはインドア志向が強くなっています。そういった子どもたちにも外の世界の楽しさを知ってもらい、将来自分の子どもができたときに「スキーやスノーボードって面白いんだよ」「キャンプもいいね」と伝えられる大人になってほしい。そのきっかけを作る場所でありたいと考えています。 

そのためには、企業としての成長も欠かせません。より多くの人を雇用できるような環境作りや、売上の増加、新たな方策の導入などを通じて、持続可能な経営を実現したいと思っています。 

 

――― そうした壮大な展望の中で、松井さん個人としての目標はありますか? 

実は、私個人の夢は意外かもしれませんが、サラリーマンに戻ることなんです。これは、スキー場の再建に携わり始めた当初から私の中にあった考えなんですよ。面白くないからか、メディアの方々は全く取り上げてくれないんですが(笑)。多くの人は「人生をかけてこの場所を守る」というイメージを持っていますが、それは私の本当の目標ではありません。 

 

――― サラリーマンですか!?とても驚きました!サラリーマンに戻るというのは、具体的にどういう意味なのでしょうか? 

私がサラリーマンに戻れるということは、このスキー場が私がいなくても運営できる状態になったということです。具体的には、あと2年程度でこの状態を実現し、若い世代に引き継ぐことを目指しています。そして私は後方支援に回りたいと考えています。 

この「サラリーマンに戻る」という夢は、単なる個人的な願望ではありません。スキー場の持続可能な経営と、地域の未来を見据えた長期的なビジョンなのです。 

 

――― その夢には、どのような思いが込められているのでしょうか? 

私がいなくなっても、ここが幸福で存続の危機に見舞われないようなスキー場を作ること。それが私の本当の夢であり、使命なのです。100年後、200年後も存続できるスキー場。それは地域と共に成長し、多くの人々の思い出の場所となり、次世代へと引き継がれていく場所です。 

そんな未来を実現するための一歩として、私は今、全力でこのスキー場の発展に取り組んでいます。私がサラリーマンとして働けるようになった時こそ、このスキー場が真の意味で再生を遂げ、持続可能な未来への道を歩み始めたと言えるのではないでしょうか。 

 

▼「あわすのスキー場」についてはこちら! 
https://awasuno.com/winter 

 

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