地元に愛されるクラブに!プロスポーツ経営者・左伴社長が目指す「カターレ富山」の認知共感
written by 大西マリコ
富山県をホームタウンとするプロサッカークラブ「カターレ富山」。2008年、北陸三県で初めてJリーグに昇格し、2023年8月現在、J3リーグにて好成績をキープ中です。
そんなカターレ富山、近年人気実力ともに上昇中だということをご存知でしょうか?その立役者とも言うべき存在が、2021年から社長を務める左伴繁雄さん。縁もゆかりもなかった富山県に移住し、プロスポーツ経営者としてどのような手腕をふるっているのか、クラブの人気実力向上を先導する左伴さんにお話を伺いました。
インタビュイー:左伴繁雄さん
株式会社カターレ富山代表取締役社長。1955年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、日産自動車に入社。英国日産自動車製造の設立に携わるなど主に生産畑を歩んだ。2001年、45歳にして横浜マリノスの社長に就任。降格の危機に瀕したクラブの建て直しに尽力すると、2003・04年には元日本代表監督の岡田武史とともにリーグ連覇を達成させた。2008年秋、湘南ベルマーレに入社し常務取締役・専務取締役を歴任しJ1昇格を3度果たした。2015年、清水エスパルスの社長に就任。初年度にJ2降格を喫するも翌シーズンに1年でJ1復帰を実現した。2021年4月、カターレ富山の社長に就任。
希望は財力と郷土愛。富山がもつ力を信じてカターレ富山へ
――― 現在、カターレ富山の社長として奮闘中の左伴さん。経営者としての仕事内容について教えてください。
物ではなく「夢」を売る。広義でいうと「スポーツビジネス」を行っています。サッカークラブの経営に携わるのは横浜マリノス、湘南ベルマーレ、清水エスパルスに続いて今回が4回目。これまではほとんどがJ1のチームでしたが、J3のカターレ富山においても私が行うことは変わりません。
最終的に「カターレ富山がここにあった良かったな」と、ホームタウンである富山県民の方々に思ってもらうことが全てです。トップチームがどういうサッカーをやるべきかを考え、伝えることを基本とし、年間19試合以外の346日も県民の方にカターレに親しんでもらうための地域貢献や、地元の法人さまを中心に評価と共感をいただくことを主な仕事としてします。
▲サッカー教室を始め、海岸清掃や古着リサイクルなど地域貢献のためにさまざまな活動を実施。県民との触れ合いで認知共感を高める。
――― 2021年4月にカターレ富山代表取締役社長に就任。きっかけは左伴さんの執筆したものを見たカターレ富山が経営相談の電話をしてきたことと伺いました。その時の気持ちはいかがでしたか?
最初は驚いて、戸惑いましたね。北陸で日本海側のクラブは初めてということと、J3がどういうカテゴリーでどのくらいの規模で会社経営を行っているのか知らなかったので。でも私自身、それまでにマリノスやエスパルスの社長を経験してきて、優勝や昇格に尽力したという自負があったので、カターレに関しても同様にやれる自信はありました。
――― 驚き戸惑いつつも、現在社長就任3期目となる左伴さん。チームは右肩上がりで、その要因には経営の見直しも大いに影響があったと思いますが、これまでに大変だったことはありますか?
過去形ではなく、今もずっと大変ですね(笑)。一番大変なことは、富山の底力にカターレ富山のブランドを追いつかせること。どういうことかと言うと、富山の県全体の力とカターレのポジションの落差が大きすぎるんですよ。一社あたりの平均所得が高くて財力はあるし、郷土愛も強い。本来ならJ3なんかにいるべきチームではないんです。
――― カターレ富山をJ1チームへと押し上げていくために、どんな施策を行っていますか?
「認知⇒共感⇒参加」というプロセスで、地域の方々とカターレが融合していくためにさまざまなことを行っています。具体的には発信力と営業力の向上です。
私が社長に就任して富山に来た頃は雨が降るとお客様はスタジアムに1000人も来ない、町や駅にポスターもない、試合の日程を知らない人がたくさんいる……といった状況でした。なのでまず、富山県にカターレ富山が存在していることを県全体に発信していくことが重要です。私がお話できることはなんでもお話しますし、メディアに取り上げてもらえる機会増加のための施策も日々行っています。
そしてもうひとつ、営業力の向上は「稼ぐ力」とでも言いましょうか。試合やイベントをやって終わりではなく、それをメッセージとして発信することで共感を促す。「そんなに熱い試合やってるならスポンサーになるよ」「協賛するよ」というマネタイズというところまで繋げるんです。
最初は発信力と営業力が圧倒的に欠けていました。しかし、そこに力がつけば財力と郷土愛がある地域なので営業収益がグンと上がって強いチームになっていくと信じています。
カターレ富山の魅力は「最後まで諦めない姿勢」にあり
――― これまでさまざまなサッカーチームを見てきた左伴さん。そんな左伴さんから見た、カターレ富山の魅力はどんなところでしょうか?
都会的ではないし、圧倒的な強さもない。プレイも綺麗ではないけれど、最後まで諦めない姿勢が素晴らしいと感じています。
例えば、先日の天皇杯3回戦のこと。雷雨の影響で延長戦途中で中断となり、翌週に延長後半分の試合が行われたのですが、2対4で引き離されたところをアディショナルタイムで1点取り返して3対4に。残り数十秒しかないのにゴールしたボールをすぐさま掴んでセンターサークルまで全力疾走し、早く試合を始めるようアピールしました。結果的にすぐに笛が鳴って終わってしまいましたが、そういう光景は人々を感動させますよね。
負けると分かっていても最後まで前向きに粘り強く頑張るところは、他のクラブにはない魅力だと思います。
――― サポーターの方たちも、ひときわカターレ愛、富山愛が強い印象ですが他のチームのサポーターと比べて感じることはありますか?
カターレは決して常勝軍団ではありません。先ほどの天皇杯の話にもあるように、弱いかもしれないし、負けるかもしれないけど「絶対にファイティングポーズを崩さない」というところを、富山の方々はよく見てくれています。
それが顕著に出ていると感じるのは、スタジアムです。カターレのサポーターは、大敗していても拍手のボリュームが変わりません。さらに、最後まで席を立たない方が多いんです。他のクラブなら、負けを見越すとぞろぞろと帰ってしまうところをカターレサポーターは帰らない。
また、負けた後に選手が場内を1周して挨拶をする時も、批判や罵声ではなく「次があるから!」「下を向くんじゃないよ!」と鼓舞してくれる温かさがあります。だから、「こんなありがたい地域でお前たちはいつまでJ3に居るんだ!」というのが正直な気持ちです(笑)。
――― 「認知⇒共感⇒参加」の参加の部分も盛り上がってきている印象ですね!そんな中、現在Jリーグにおいて “春秋制”から“秋春制”へのシーズン移行の話が出ていますが、こちらについてはどのように考えていますか?
今の段階だと良いも悪いもなくて、移行することでどういうメリットやデメリットが生じるのかを細かく検討しているところです。
先日もサポーターの方々に集まっていただき、市内でタウンミーティングを開きました。現在の状況や移行した場合の影響などを説明し、また、富山県庁にも同様の説明をした次第です。
最終的には、サポーターや富山の皆さんがどう思っているのかが僕の最終ジャッジになるべきだと思うんですよ。なぜなら僕はチケット代を支払って寒い中スタジアムで応援したり、暑い中、熱中症の危険と隣り合わせで応援したりするわけではないから。影響を受ける方々が、どういうふうに受け止めるかが最も大事だと思っているんですよね。
他のクラブがここまでしているかは分かりませんが、僕としては全開示型の双方向コミュニケーションで最終ジャッジをするのが最適だと考えています。
「チームの存在で富山県民の時間を豊かに!」を目標に邁進
――― カターレ富山社長就任とともに、富山に移住された左伴さん。それまでは富山についてあまりご存知なかったとのことですが、実際に住んでみて分かった富山県の魅力はありますか?
実は僕、社会人として住民票を移したのは今回が初めてなんですよ。現在は富山市に住んでいますが、とても住みやすくて綺麗ですね。富山は車社会のイメージがあったのですが、公共交通機関もしっかりしている。とくに、バスと市電が発達していてスムーズに移動できます。
あとは、水が綺麗だと感じます。富山に住んで、スーパーの何気ない豆腐が美味しくて驚いたんですよ。それで水が綺麗なんだろうなと。
あと、富山に来て2日目に有沢橋を走っていた時に見た立山連峰は感動しましたね。横に長い立山連峰はよく屏風に例えられますが、まさに大きな屏風のようで迫力があり圧巻でした。あまりに興奮して「カターレのユニフォームデザインはこれしかない!」と言ったくらい(笑)。
僕のように他の地域から来た者にとっては、この日常風景にこそ魅力が詰まっていると思います。
――― 本日は貴重な話をありがとうございました!最後に、左伴さんが考える、カターレ富山の今後の目標について教えてください。
優勝やJ1昇格ももちろん目指していますが、最終的にはホームタウンである富山県の方々に「カターレが富山にあって良かったな」「カターレはワクワクさせてくれるな」と思っていただくことです。カターレの存在によって、みなさんの日常が豊かな時間になったらこんな嬉しいことはないですね。
もうひとつは、子どもたちの憧れのクラブとなること。これだけ郷土愛をもった方が多い地域なので、富山出身の選手がもっと増えて憧れられるクラブチームになってほしいと思っています。
▼カターレ富山についてはこちら!
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