高岡の鋳造文化に育まれて。木型一筋40年、伝統産業を影で支え続ける職人の軌跡

レッド

written by 川西里奈

伝統的な文化が数多く残る富山県。中でも「高岡銅器」で有名な高岡市に「木型工房HANANO」はあります。40年近く鋳造用の木型職人として働いてきた花野義章さんは、自身の職人としての半生を振り返り「この街だからこそ続けてくることができた」と話します。高岡市での木型職人とはいったいどのような仕事なのでしょうか?

花野義章

昭和41年富山県高岡市生まれ。富山県立高岡工芸高校デザイン科卒業後、有限会社 嶋モデリングに入社。8年間木型職人としての技術を学んだ後に、木型工房HANANOを設立。趣味は史跡や神社仏閣巡り、うまい酒を飲む事。

日用品から工業製品まで。多岐にわたる鋳造木型の役目

ーーー今日はお忙しい中ありがとうございます。早速ですが、花野さんがされている「木型職人」というお仕事について教えていただけますか?

 

鋳造製品を作る際に最初に必要な原型を木や樹脂を材料として製作する仕事です。木型は鋳造するにあたり製品形状の元となる、非常に重要な役割を果たしています。

 

私が携わっているものは、日用品から工業製品まで多岐にわたります。建材部品や建材エクステリア、門扉やフェンス、橋の高欄パネルやモニュメント、工業機械部品、美術鋳物などがあります。豆粒のような小さな物から3メートル程のビルの外壁部材まで、サイズも様々な木型を作っています。

 

ーーー作られた木型はどのように鋳造に使われるのですか?

 

鋳造の現場に運ばれ、特殊な砂を用いて木型から形状を転写します。木型を取り出してできた砂型に溶かした金属を流し込み冷却し取り出すと、木型と同じ形状の鋳物が完成します。

高岡には様々な鋳造技法の鋳物工場があります。複雑な形状の工業製品や美術製品の製作に適したロストワックス鋳造(蝋型鋳造)、大型の製品を鋳造するのに適している鋳物砂に樹脂などを混ぜて、自硬性やガス硬化で砂を固めてしまう鋳造方法、砂を利用せずに金属の型に溶けた金属を流し込む金型鋳造、その他にもⅤプロセス鋳造やダイカスト鋳造などがあります。多様な技術の集まった町と言えると思います。

その中でも一番多く用いられている鋳造方法は、砂に少し水を加えた鋳物砂を押し固めて作る「生砂型鋳造」です。鋳造後直ぐに砂を崩して再利用できるので、工期の短縮やコスト削減につながります。

ーーーそういった歴史が高岡市の鋳造文化の発展につながっていったのですね。花野さんのオリジナルデザインの製作物もあるとお聞きしました。

 

鋳物と木を扱ってきた自分の経験を活かし、ふたつの素材を組み合わせて作ったジュエリースタンドやパーテーションスタンドなど、オーダーが入ったときにはオリジナルの商品も製作しています。木製のインテリア小物や椅子・テーブルなどもオーダーがあれば承っています。お客様の求めるイメージと素材の質感を活かすことを大切に製作しています。

文化財的価値のある建造物部材の復元を行う事も

ーーー花野さんはなぜ木型職人という道を選んだのでしょうか?

 

昔から木で何かを作りたいという思いがありましたね。両親は高岡市で床屋を営んでいたので、自分も普通に就職するのではなく何か手に職を持ちたいと考えていました。両親の床屋にいつも散髪に来ている常連さんが、たまたま型製造をやっている会社の社長でした。その方が高校の夏休みに、バイトに来ないか?と声をかけてくれたのがきっかけで、高校を卒業してから入社することになりました。

 

その会社では、橋の欄干の高欄パネルに動物や人物、風景や建造物など様々な模様を彫るなど技術力の求められる仕事を任されることもあり、やりがいを感じていましたね。お客さまのイメージに忠実に作れるようになり、喜んでいただくことも増えていきました。その後8年間技術を学びながら経験を積み、独立しました。

 

ーーー製品を作っていて、楽しさを感じるのはどんなときでしょうか?

 

自分の名前が表に出ることはないですし、「これを作りました!」となかなか言えない仕事です。ですが、多くの人の目に付くものを作れるのはやはり楽しいですね。自分が携わってかたちになったものが日本全国の街で見ることができますし、完成した製品を身近に感じられる点もこの仕事の魅力だと思います。

古くなった文化財的価値のある建造物の復元をするために、昔の写真を見ながら同じようにかたちを作っていく仕事もあります。明治時期頃の照明の復元に携わったりしたこともあります。むずかしい作業ですが、歴史のあるものに関わったりできるのもこの仕事のおもしろさですね。

歴史と伝統に磨かれた技術力を次世代へ

ーーー花野さんが鋳造木型の職人として長年ご活躍されてきたのは、高岡市だったからこそと思われますか?

 

やはりこの仕事をしていなければ、どこか違う場所に行っていたかもしれませんし、他の場所でこの仕事に就いたとしても、ここまで続けることはなかったと思います。

 

ーーーなぜそう思われるのでしょうか?

 

高岡市の鋳造業は他の地域に比べて、明治頃から仏具や花瓶など、個人の技術力が試される装飾性の高い仕事が増え始めました。こういった仕事のやりがいは、高岡市で木型職人として働いてきたからこそ味わえた感覚ではないでしょうか。

 

ーーー高岡市で職人として働くのは、とても豊かな経験になりそうですね。最後に、高岡市の鋳造業に興味を持っている方々へメッセージをお願いします。

 

今後は高岡市の木型職人の数も減っていく方向にあります。3Dデーターによるマシニング機械の発達で人の手による作業が減ってきていますが、鋳造技法に対応した製作方法や細かな仕上げなど、最後は人の手によって仕上げる必要があります。やはり技能の継承は問題になってきております。大変な分野の仕事には間違いないのですが、そこを理解した上でこの仕事の魅力を知っていただき、やる気のある方にこの地で、木型をはじめ鋳物業界に根付いていって欲しいと思います。

 

鋳造木型の職人というのは、思ったものをかたちにすることができるという意味ではとても魅力的な仕事です。例えば、図面がなくラフスケッチ程度でも「こんなかたちのものが欲しい」とオーダーが入れば、箸置きでも器でもそのかたちのものを作る技術を身につけることができます。

高岡市は伝統産業が盛んなだけでなく「瑞龍寺」と「勝興寺」という国宝がふたつもあります。400年以上の歴史の奥深さと伝統産業が魅力の街です。高岡市の魅力とともに、鋳造文化や木型職人の仕事についても少しでも多くの方に知っていただけるとうれしいです。

 

ーーー貴重なお話をありがとうございました!

▼「木型工房HANANO」についてはこちら

http://www.kobo-h.com/hanano.html

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