伝統工芸の枠を超え、世界を目指す製品づくり。鋳造の新たな価値を創出する佐野政製作所
written by 川西里奈

富山県高岡市で400年続く伝統産業を支える佐野政製作所。同社のSNSを覗いてみると…。箸置きやトレイの他、バターケースやキャンディーケースなど、どれも見たことがないような前衛的なデザインで、手にとって触ってみたくなるようなものばかり。専務取締役である佐野秀充さんの伝統産業の未来を切り拓く革新的な思いに迫りました。

佐野秀充
1982年富山県高岡市生まれ。有限会社佐野政製作所 専務取締役。飲食店の経営を経て、2007年に佐野政製作所の後継者となる。2020年には高岡伝統産業青年会の会長を務める。2021年工芸都市高岡クラフトコンペティションで奨励賞(高岡市長賞)を受賞。
新ブランドを立ち上げ、海外へ展開
ーーー佐野政製作所では、一風変わったデザインの製品がありますね。どんな製品なのか教えてください。
「HELE」と「U,」というオリジナルブランドがあり、それぞれ個性を持ったプロダクトを展開しています。「HELE」は、ニューヨーク在住のデザイナーと共同で手掛けたブランドで、“暮らしの中へ小さな好奇心をかき立てる”をテーマに鋳物とデザインを融合させています。「U,」は“日常のきらめき”をテーマにしたシンプルで洗練されたデザインが特徴です。
△「HELE」クジラバターケース。200gのバターがクジラに丸呑みされたユーモアを込めたデザインで、プレゼントなどに人気。
△「U,」ロリポップタイプのためのキャンディケース。「明らかな実用性を携えていない」ことを追求した遊び心のあるアイテム。
ーーーどういったところで販売されているのですか?
オンラインショップやイベントでの販売がメインです。「HELE」のダルマ箸置きは表参道などに店舗がある、ニューヨークの近代美術館のデザインストア「MoMA」でも販売していて、海外からの反響も多くありました。
△ダルマ箸置き。縁起物のダルマとベーゴマをイメージした造形。
ーーーどういったきっかけで、海外で活躍するデザイナーと協働することになったのですか?
高岡伝統産業青年会でのつながりは大きいですね。「クラフツーリズモ」という工場見学ツアーや、「ツギノテ」というクラフトフェア、ギフトショーなどの東京で開催される展示会への出展など精力的に活動している団体です。
2020年に「Creators Meet TAKAOKA」という、都市部のクリエイターと高岡市の伝統工芸の職人が、協働で商品開発やブランド形成、アート作品の制作に取り組むことで関係人口の創出を目指すプロジェクトがありました。こういったプロジェクトをきっかけに海外のデザイナーさんと出会い、ブランドを経ち上げたりと新たな流れが生まれていきました。
つながりを活かしたものづくりの街
ーーー佐野政製作所では、創業当時どのようなものを作っていたのですか?
祖父が鋳物業を営み、父がその流れを汲む形で1976年に佐野政製作所を創業しました。その頃は仏具をメインに製造していて、御念珠掛けが大人気でとても忙しく、鋳造を協力業者さんにお願いしたりしていました。その後、時代とともに事業の形態が進化していき、企業のノベルティーグッズや記念品の製作が増えていきました。
△「御念珠掛け」は先代の頃の主力商品。
ーーー代替わりされて、経営面で変わったのはどんなところでしょうか?
時代とともに、少量でむずかしいデザインの製作物は断ることが多くなっていたのですが、僕はそれを単純にもったいないなと感じて引き受けたりしていました。その結果、珍しいものをいろいろ作っているというのが、注目されるようになったのかなと思います。
昔は問屋さんと呼ばれる、工房や職人さんを取りまとめる立場の人がたくさんいて、そのおかげで高岡の中でいろんな鋳造の仕事がうまく回っていたんです。青年会に関わったことで、工房や職人さんたちとも広くつながりを持つことができたのだから、自分でそれをやっていこうと思いました。
高岡は伝統工芸の集積地として知られています。鋳造においては、加工や仕上げなどの各工程を専門とする事業者が連携し、一つの商品を作り上げる分業体制を採っています。高岡では各工程ごとに工房が分かれており、地域内の複数の工場を回りながら商品を完成させます。このネットワークが高岡の強みであり、ものづくりの楽しさを感じられる部分でもあります。
一家で団結し、各世代が活躍するチームに
ーーー佐野さんは、いつ頃から会社の跡を継ぐことを考えていたのでしょうか?
もともとは飲食店の経営をしていて、仕事もうまくいっていたので家業を継ぐ気はまったくありませんでした。一番の転機は、母が病気になった時のことです。
母が入院してしまい、父や弟が家事や仕事が大変そうなのに、自分は仕事で朝帰りが続き、「このままでいいのだろうか」と思うようになりました。その後父や兄弟と何度も話し合い、家業を継ぐ形になりました。正式に継ぐことを祖父に話したら、泣いていましたね。
正直、仏具メーカーという仕事を地味だと感じてたのですが、久々に鋳造の工場に入ると、幼い頃から慣れ親しんだ独特のにおいを懐かしく感じました(笑)。そいえば小さい頃、製品を入れるみかん箱に入ってみんなの仕事が終わるのを待っていたなあ、とか懐かしい記憶が蘇ってきたのを覚えています。
今では母も元気になり、家族6人で経営しています。新しいブランドの展開は若い世代が中心となり、従来の仏具製作は親世代が担当するなど、役割分担をしながらチームとして柔軟に動いています。
△いくつもの協力事業者間を、製品を入れた「通い箱」が巡る。
新たな発想を軸に、未来に残す伝統工芸
ーーーこれから新たにやっていきたいことはありますか?
ブランドとしての世界観が伝わるような、おもしろい物を作っていきたいですね。伝統工芸という枠にとらわれず、手作業ならではの特性を活かし、品質の高い製品づくりを目指していきたいです。
企業のオリジナルトロフィーやオーダーメイド品といった特注品も、これまでのノウハウを活かしながら新しい発想でチャレンジを続けていきたいですね。
近年では、後継者がいなくて工房を閉めてしまう協力業者さんも多いです。伝統文化を絶やさないためにも、僕自身が子どもたちに魅力的に感じてもらえる仕事をしていきたいです。高岡の伝統産業は、長い歴史を持ちながらも新しい可能性を秘めています。佐野政製作所では、伝統と革新を融合させた新しいものづくりにこれからも取り組んでいきたいと思います。
ーーー最後に、鋳造のお仕事や高岡市に興味のある方へメッセージをお願いします。
鋳造の仕事は思い描いたものは何でも作れるおもしろい仕事です。僕は子どもがいるのですが、おもちゃだって何でも直したりできて、「お父さんすごい」って言われる仕事です(笑)。とても早いスピードでものづくりが進むのも、たくさんの工房や職人さんがつながり合っている高岡ならではの仕事のおもしろさかなと思います。興味があればぜひ高岡で鋳造文化に触れてみてほしいです。
ーーー佐野さん、ありがとうございました!
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