PRの力で地域を豊かに。ひとりひとりが自分らしい生き方を選べる世の中を目指して
written by ダシマス編集部
地域やスモールビジネスのPR・事業開発支援などを行う『70seeds株式会社』代表の岡山史興さんは、2年前に日本一面積の小さい村として知られる『富山県中新川郡舟橋村』に移住。子育て支援に力を入れている村での生活の様子や、PRの仕事に対する思い、地方での働き方についてお話を伺いました。
岡山史興
スモールビジネスの支援を中心とした事業に取り組む70seeds株式会社の代表。企業、地域などのパートナーとしてブランド戦略立案からマーケティング、PR、新規事業開発などを手掛ける。2018年9月東京に会社を構えたまま「日本一小さい村」富山県中新川郡舟橋村に家族で移住。現在は自身の知見や経験をより多くの人に届けるため、東京や富山に限らずサーキュレーション社の「プロシェアリング」なども活用し、全国各地で活動を行なっている。
日本一小さい村での子育ては、クリエイティビティに満ちていた
ー岡山さんは東京で仕事をしながら、ご家族で富山県に移住したそうですが、移住先に選んだのはどんな場所なのでしょうか。
岡山:日本一小さい村と言われている「舟橋村」というところです。舟橋村は子育てに力を入れている村で、大事にしている子育ての価値観を守るために合併をしないという判断をしてきた結果、日本一面積が小さくなったんです。それを聞いたとき、村としての価値観がはっきりしているところがとても良いなと思い、移住を決意しました。
ー日本一小さい村、ということですが孤立したり閉鎖的な感覚はまったくないですか?
岡山:村の外から移り住んだ人が人口の半分くらいを占めていて、移住者の受け入れ体制が整っているので、新しい人もどんどん増えていますし、閉鎖的な感じも一切ないです。
子育て世帯の移住者が多い村なので、子育て支援センターの存在感が大きいですね。そこに行けば子育て中の親同士が自然とつながっていけるような環境があります。
子育て支援センターには、移住者ばかりではなくて周辺の町の人など600人くらいがいて、人間関係が広がるという声をよく聞きます。
ー実際に舟橋村での子育ては東京と比べてどうでしょうか。
岡山:東京では商業施設が充実していて、お金を払って楽しむ“消費行動”が多いですが、この村にはそういった便利な施設はありません。なので近くの公園へ行ってカエルを捕まえたり、つくしが生えているからそれをとって料理してみようとか、自分で何かをみつけて遊びをつくり出す、クリエイティビティが育つ遊びができます。
お金を払って楽しませてもらう、ではなくて創造や生産のほうに意識を向けられる環境が、考える力を育ててくれると思っています。
平和から考えた、地域のスモールビジネスの活性化
ー移住先での仕事については不安などなかったでしょうか。
岡山:元々、企業や地方の自治体に対してPRやブランディングの支援をしたり、プロジェクトの企画や運営をしていたのですが、いろんな場所を移動しながら場所に囚われず仕事をしていたので、不安はありませんでした。
ーPRの仕事を始めたきっかけはどんなことだったのですか?
岡山:高校生のときから平和活動をしていて、被爆者のことを世界に伝えていくための署名を国連に届けたり、ローマ法王に会ったりなど、“平和”というのが生きていく上での大きなテーマでした。
しかし、社会活動に取り組む人たちは見せ方や伝え方があまり上手ではないことが多くて、せっかく素晴らしい活動をしているのにそれではもったいない。そこがしっかり伝わるようになればもっと良くなるのになという感覚があり、PR会社へ就職しました。
その後、東日本大震災のときに、被災した方々のスモールビジネスを支援する事業の立ち上げで現地に実際に足を運んでいくうちに、ひとりひとりの目の前にあるスモールビジネスや地域が「平和」を具体化するテーマになっていきました。
ー岡山さんの思う平和とはどんなイメージでしょうか。
岡山:ひとりひとりが自分の頭で考えて、自分の生き方を選択できる状態になることです。自分の生きる場所や働き方をいかに自分でコントロールできるか、というのが幸せにつながり、その先で初めて平和という言葉が意味を持つと思います。
自分らしい生き方をするためのフィールドとして、地域やスモールビジネスがあり、そこを豊かにしていくことができればと思います。
地域事業をPRするには、伝え方よりも作り方が大事
ー地方でPRの仕事をする上で大事にされているのはどんなことでしょうか。
岡山:伝え方よりもっと踏み込んで、ターゲットをこうしたら事業がもっと伸びるんじゃないかとか、事業自体や活動、商品を作るところからいっしょにやっていきます。
特にスモールビジネスの場合、コンセプトは良くてもやり方がずれているという場合も多く、伝え方だけを工夫しても長くは続きません。
ー作るところから入ってやっていく、というのは地方だからこそできることなのでしょうか。
岡山:地方だから、関わり方に余白がいっぱいあるなと思います。東京ではすでに決まっていることをどう変えるかなど、しがらみが多いです。でも地方ではやらなきゃいけないことが山積みなのに人がいないので動けていないケースも多い。そういった部分をまるっとお願いしてもらえて、自分の裁量で動かすことができるというのはありますね。
その経験があると東京でも事例として話をすることができて、2拠点でやっているからこその良い循環だなと思います。
それと、相手にも自分にも無理をかけずに仕事をすることも大事にしています。例えば、東京の大きな会社と地方の中小企業ではひとつのプロジェクトにかけられるお金や時間も違います。それに対して、東京の感覚であれもこれもやりましょうとやっても、地方の方はその大変さだけで潰れてしまいます。本当に必要なことは何かを順序立て、無理なく取り組める環境をつくることを大事にしています。
移住先で仕事を作るには、「◯◯の人」になること
ー地方で仕事を作っていくためにはどうするのが良いでしょうか。
岡山:自分の役割を早めに確立することだと思います。僕の場合はPRやブランディングですが、地方では誰かの役に立ったことがより直接の口コミで広まりやすいです。自分の得意なことで役に立っていくと、その役割が確立されていきます。
コミュニケーションをとって仲良くなるというのもありますが、地域によってすぐに打ち解けられるかはわかりません。なので、自分が得意なことは何かを理解して、具体的に誰かの役に立っていくことが第一歩ですね。
地方では、東京と比較したときの人の層の薄さが逆にアドバンテージとなって、「この町で◯◯といえばあの人」と想起される存在になりやすいです。
自分の強みの分野で成果を出していると、信頼されていって他の人につないでくれるなど、そこからどんどん広がりを持つことができると思います。
ー競合となる人や会社がすでにあった場合はどうすれば良いでしょうか。
岡山:同じジャンルでも少しずつ得意分野が違ってくると思うので協力するのが良いと思います。小さな町だからこそ、ライバル関係になるのではなくて、仕事を融通し合ったりしながら、仲間を増やしていけるのも良いなと思います。
自分の人生をコントロールできる人材を増やしたい
ー今後、岡山さんが仕事をする上で実現したいのはどんなことでしょうか。
岡山:ひとりひとりが自律した世の中をつくること。そのために、自分でコントロールできる事業の成長を支援するなど、周りに対してできることをやっていきたいと思います。
自分の人生を自分で考えてコントロールしていける人がもっと増えていくと良いなと考えているので、そのために自分で働ける武器を持った人をどんどん育てていきたいです。そういう人が活躍できる世の中で、子どもが育っていけると良いなと思います。
今、世の中が混乱している中で「自分で考えて動けるか」ということがますます問われているなと思います。こういうときこそ、一歩立ち止まって自分の頭で考える人が増えてくれば、デマが拡散したりすることもなく、的を得た意見が出てきたりするはずです。
軸を持たず誰かに判断を委ねたり流されていると、その先で後悔せず生きていくのはむずかしいかもしれません。世の中に変化が起こっても自分の暮らしを守っていけるかどうか、今一度よく考える必要があるなと思いますね。
▼サーキュレーション社の「プロシェアリング」
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