地方企業はIT化をどう受け入れる?地方と都心を結ぶ働き方のコツ

レッド

written by ダシマス編集部

地元である富山と住んでいる東京を行き来しながら、3社目となるIT企業を立ち上げた地村未知弘さん。富山の企業ニーズに合わせてIT化を推進するコンサルティング業をしている地村さんに、地方での自身のスキルの活かし方や、現在の働き方についてお話を伺いました。

地村未知弘(じむらみちひろ)

地村未知弘(じむらみちひろ)

インフォマティクス・インテックを経てスタートアップ立ち上げに携わった後、株式会社アークネクトを設立。独立後はITを活用した業務改善提案に加え、AIやIoT導入時のアドバイザリーに従事している。現在は、サーキュレーション社の「プロシェアリング 」を活用するなどで、東京と地方の企業でパラレルワークを実践中。株式会社アークネクト 代表取締役。

「仕事ついでに地元を行き来したい!」地方企業コンサルを始めたきっかけ

ー早速ですが地村さんは現在、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

地村未知弘(以下、地村):地方企業へのITコンサルティングです。よく「ICTの推進」という言葉を聞きますが、地方はやはりまだIT化が都心ほど進んでいません。都心で売っているシステムは地方の企業にとってオーバースペックであることが多く、いざITを導入しようと思ってもニーズに合わないということが多々あります。そのためコンサルティングを通して、地方のお客様の実態に合ったクラウドサービスをつくっているところです。

例えば、勤怠システムをアプリでシンプル化したものなど、会社の業務の改善を目的としたものが多く、これから本格的な展開をしていく予定です。

地方企業には、タイムレコーダーを使った従来の勤怠管理を導入しているところも多いので、システムを入れたタブレットを使って導入をしています。

あとは在庫の棚卸し業務などを、数を数えるのではなくスマホでの画像認識を使って個数を把握できるものといった、“かゆいところに手が届く”ようなサービスをつくっています。

ーでもなぜ、地方企業を相手にお仕事をされているのでしょうか。

地村:もし両親に何かあった時など、地元である富山にすぐに帰れる環境を整えておきたいと思ったからです。

今の会社を設立する前はインテックという富山に本社のあるIT企業に勤めていました。そこに入社したのも、何かあったら富山に帰りやすいから、という理由からでした。

でも、やっぱり自分で会社つくったほうが、仕事を利用して柔軟に富山に行きやすいと思ったのがきっかけです。イヤらしい話ですが、会社の金で実家に行こうって、不謹慎な動機もゼロではありません。

今は週に一回は富山のお客さんのところに通っています。だいたい月曜日に東京から富山に行って、実家に2日間くらい滞在するという生活を2年続けています。あとは長野に行ったりもしますが、基本は東京と富山ですね。

地方と都心の橋渡し役。移住ではなく行き来する理由

ー地方企業からも、IT化の需要は上がっているのでしょうか?

地村:需要というより必要性が高まっています。というのも、地方の会社は本当に人がいなくて、高齢化も進んでいる。今働いている従業員に依存している仕事が、その人が退職したらどうするか、といった危機感を良く社長から聞きます。人に依存している部分をITを使って効率化させる必要もありますが、もちろん人に依存する部分とIT化をしたほうが良い部分というのは両方あるので、その棚卸からコンサルティングをしています。

また、社長がITを導入しようとしても「誰に相談したら良いからわからない」という声が多くあります。そういった生の声に対して、欲しいものをダイレクトに届けることができていると思います。

インターネットがあるとは言っても、ITの生きている情報はやはり都心に集まります。地方企業の経営層は特にそういった情報に飢えていると感じます。

ー富山に移住するのではなく、東京と行き来しているのはなぜでしょう?

地村:都心の動静をキャッチアップし続けるため、都心で仕事をするようにしています。そこで得た最新の情報を地方企業に届けるために、都心と地方の両軸で活動する必要があります。

逆に、都心で仕事をしている人たちは地方企業の実際を肌感覚でわからない、と思っているんです。私が地方企業のリアルな情報を都心に伝えると、IT化が進んでいない実態に驚かれたりもしますね。現場での声は、都心の会社にとっても新鮮で価値があり、実際に商品開発に活かされることもあるのではないでしょうか。

そんな風に、都心と地方の橋渡し役ができると良いなと思っています。

今、デュアルライフのように地方と都心の両方で働くことを望む方が増えていますよね。一方で、東京で活動しながら地方企業の課題に触れ、解決案を提案、実施するというステップを踏むことはなかなか難しい。そんな時に「プロシェアリング」のような、地方企業の課題と都市圏の人材を繋ぐサービスの活用が有効な方は多いのではないでしょうか。

小さな成功を積み重ね、地方企業の意識を変えていく

ー地方の企業に新しい仕事の仕方を受け入れてもらうために、何か工夫はされていますか?

地村:まずは「みんなが楽になるように、私も努力します」と伝えるところから、関係性を築いていくのは大事だと思っています。

その上で、早く結果が出るような小さな提案で改善の数を増やし、“変わる”経験を繰り返して社内の人の意識を変えていくことが大切です。

例えば、ある企業では裁断機で紙を切っていて、「それ危ないからミシン目の入った紙を使うのはどうですか?」と言ったら「たしかにそうだ!」となったり、そういうアナログな提案もありました(笑)。楽になった経験でしか、意識は変わらないですからね。その繰り返しが大事です。

20年以上同じ仕事のやり方をしていたり、変化に柔軟ではない企業はあります。そこへITで仕事の仕方をどんどん変えていきましょう!というのはやはり相手側の抵抗感を感じることはよくあります。

その意識をどう変えていくか。彼らが自主的に改善を続けていける文化をつくるのが私の仕事なんじゃないか、と思っています。

富山に帰りたい人の、受け皿となる場所に

ー地村さんの今後の展望を教えてください。

地村:東京で活躍している人が富山で東京で得た知見を活かす場所をつくるために、富山に子会社をつくろうと思っています。

都心にいる優秀なシステムエンジニアが、富山にいる両親にいつでも気軽に会いたい場合に、受け皿となれる会社でありたいと考えています。

両親が具合が悪くなったときに「介護離職」をするケースもありますが、それはすごく寂しいし、企業にとっても痛手です。

IターンやUターンという言葉もよく聞きますが、一方通行よりも、時期や個人の状況に応じてそれぞれの拠点を行き来できるのが良いのではないかなと思います。

富山で親の近くにも居られて、最新の技術にも触れられる。そんな環境をつくることが夢ですね。

ー富山を元気づけるとか盛り上げよう、というような目的もあるのですか?

地村:元気づけよう!とかそういう目的ではないです。もちろん、郷土愛はありますよ(笑)。あくまでも事業として収益をあげ、支援してくれる方へ対価を還元できる仕組みを作って、いろんな人たちを磁石みたいにうまくつなぎ合わせることで、自然とうまく回っていくのだと思っています。その結果、元気づけることにつながると良いですね。

ーいつかは地方で働きたいと思っている若い世代の人は、どういったスキルや経験を積むと良いでしょうか?

地村:自分のやりたいこと・できることを見極めることです。地方だからというよりは、どの領域でどんな活躍ができるかを考え、あとは自分の考えをもとに行動に移すことですね。その上で初めてわかることがあります。すると結果的にできることが増えていくと考えています。

ネットでは知り得ない、経験の先で知れることを非常に大切にしています。経験のない新しいことをやるのは勇気が必要ですが、その一歩を踏み出す心を大切にしています。とにかく行動することが第一歩として大事だと思います。

 

サーキュレーション社の「プロシェアリング」

株式会社アークネクト

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